
「ドッグセラピー」という仕事をご存じだろうか。老人養護施設や身障者診療施設などを犬と一緒に回り、施設の人たちが犬と触れ合うことで、心と体を健康にする医療手法の一つだ。

この本は、阪神淡路大震災をきっかけに一人の主婦と一頭のラブラドール犬が、日本にドッグセラピーの輪を広げていく感動のドキュメンタリーである。
作者の大山ひとみ氏は平成7年1月17日、大阪豊中市の自宅で、あの阪神淡路大震災に遭遇する。その経験から命の尊さを実感し、人の命を救う災害救助犬を育てることを志す。自宅で飼っていたラブラドール犬を、まず自分で訓練し、新たなレスキュー犬にしたてようとして、日本レスキュー協会を設立するのだ。

レスキュー犬を連れたボランティア活動も活発に行っていたとき、震災で親を亡くして傷ついた子どもたちのために「あしなが育英会」が主催したクリスマスパーティーに参加。
そこで、一頭のオス犬であるアムロが“子どもたちの心を開かせる仕事が大好きだ”とでも言わんばかりに子どもたちと遊びながら笑っているのを見た。
その顔を見た大山氏は、「レスキュー犬」以外にも人を救う仕事があることをアムロに教えてもらったのだ。
アムロがもたらした奇跡はたくさんある。心を閉ざして人とまったく話をしようとしなかった少女に笑顔をもたらしたり、車椅子の老人を立ち上がらせたり。アムロの癒す力によって、多くの人たちがゆっくりと変化していくのだ。この本には、その過程がとても丁寧に書かれている。

大山氏は、それを「イヌの時間」という言葉で説明する。犬は過去や未来のことを考えることがない。今、この瞬間を楽しむことだけを考える。そんな犬を見ているだけで、人は過去の傷や将来の不安を忘れられるのだろうというのだ。「どうしたの、さあ、いっしょにボクと遊ぼうよ」と無言で話しかける犬たちに、多くの人たちは心の扉を開くのだ。
人の笑顔が大好きな犬たちにとって、「セラピードッグ」は天職かもしれないね。