
サブタイトルに「~グランド・ゼロの記憶」とあるように、この本はあのニューヨーク世界貿易センタービルの悲劇の中で、人命を救った救助犬ベアの物語だ。

さまざまなニュース報道やTV番組であの事件を見た人は多いだろうが、実際にその現場で救助の仕事をしていた人たちの真実の話は、映像をはるかに超えている。
11歳の老犬でありながら、救助犬として働くベアと彼の飼い主である海上安全管理者のスコット・シールズは、コネティカット州にある自宅のテレビでその惨劇を目撃した。ただちにスコットは、愛犬のベアを車に乗せ、半ズボンのまま誰よりも早くニューヨークの現場に到着し、瓦礫の山の中に埋もれていた人々を救った。

「こっちにベアを!ベアをよこしてくれ」。
現場の消防士たちは口々にベアを求めて叫んだ。正式な救助犬チームが申請許可の問題で現場に出されることなく待機させられていたとき、ボランティアで参加していたベアの鼻だけが瓦礫の下で生き埋めになっていた人々を探す唯一の頼りとなったのだ。
舞い上がる粉塵の中に鼻を突っ込み、必死で捜索するベア。スコットは、ベアを1時間ごとに休ませ、目を洗い、耳をふき、足の裏に突き刺さった小さな残骸をとり、さらに鼻の穴から吸い込んだ灰を取り除く。そしてまた、ベアは粉塵の山の奥へ深く入りこんでいくのだった。
自らの危険をかえりみず生存者の救出を続けたベアは、その後、6つの癌を併発し、帰らぬ犬に…。グランド・ゼロの英雄として、消防士の葬儀で天へ送られた。

すべてが“トゥルーストーリー”、
実話はハッピーエンドとは限らない。
あの歴史的惨劇の中でニュ―ヨークの人たちはどうやって力を合わせ、生存者を救出していたのか。その中に、ベアをはじめとした尊い犬たちの活躍と犠牲があったことをこの本は教えてくれている。
もう一度、あの事件を救助犬ベアの目線で追体験し、考えてみるのも意義あることだと思う。