

犬は飼い主が思っているほど単純な動物ではなく、何世紀にも渡って進化してきた固有の種だ。そこで今月は、犬の行動の本当の意味をさまざまな角度から教えてくれる「良書」を紹介して、犬の本質を勉強するきっかけにしていきたい。
最初にご紹介するこの本は、犬に興味をお持ちの方なら、きっと飽きることはないだろう。章立てからしてこうだ。「犬は礼儀正しいか?」「犬のコミュニケーションは歌舞伎だ」「犬と狼、頭がいいのはどっち?」どうかな?俄然、読みたくなってきたでしょ。
“科学者、作家、ジャーナリスト、そして犬好き”とプロフィールで紹介されているように、著者のスティーブン・ブティアンスキーという人はイェール大とハーバード大で博士課程を取得した科学者で雑誌「ネイチャー」の編集部にも在籍した人物。科学の知識だけでなくユーモアのセンスも抜群だ。

そんな博識の犬好きユーモリストが、最新の犬研究の成果をほとんど網羅し、誰もがやさしく読めるように書いたのがこの「犬の科学」。“数千年前の犬は生物学的たかり屋であった”とか、“人間が犬を選んだのではない。彼らがわれわれを選び、われわれは彼らに捉われたのだ”とか。そこかしこにドキッとする分析をする。きちんとした科学的な根拠をベースに、辛口のスパイスで味付けしたサイエンスエンターテインメントといえよう。犬の起源から犬の行動の意味、その本当の性格など「へぇ~、そうなの」という話が次から次へと出てくる。面白いことに犬のことを深く知れば知るほど、実はそんな犬たちと生活してきた人間の本性が見えてくるのだ。

単に人間に忠実な犬を、主人のために命も投げ出すような「名犬」に仕立てたり、人間の感情の機微まで理解できる「最良の友」にしたり、どうしても人間は犬を擬人化して見てしまう。犬はそんなことはおかまいなく、“自分より強いリーダー”という理由で、主人の意向にそう行動をしているだけ。それが犬たちにとっては楽な生き方だからと『犬の科学』は見抜いてしまう。
「せっかく人間が勘違いしているのに、余計な事を教えないでほしいな」なんて声がわんこから聞こえてくるような、犬の立場からいえば飼い主にはあまり読ませたくない本かもしれないね。